2023.08.02
「媒体費に印刷費は含まれますか?」
当サイトのお問い合わせに、比較的多く寄せられる質問です。このコラムでは、これまで取り上げてこなかったOOH(屋外・交通)広告の費用の内訳について、5分でわかるようにご説明。あわせて、決して安くはない広告費を抑え、できるだけ費用対効果を高めるにはどんな工夫が考えられるか、についても触れていきます。
まず話をわかりやすくするために、このコラムではOOH(屋外・交通)広告を、デジタルとプリント、二つのカテゴリーでとらえつつ説明いたします。
デジタルには、JR東日本のトレインチャンネルのような車内デジタルサイネージや、同じく新宿ウォール456のような駅サイネージなど、いっぽうプリントには、中づりや駅ポスターなどが入ります。
ここで注意していただきたいのは、「絵が動くかどうか」ではなく、動画でも静止画でもデジタルデータをモニターで投影するタイプか、紙などに印刷して掲出するものかどうか。前者をデジタル、後者をプリントとし、できるだけそれ以上は複雑にならないように説明していきます。
さて、5分で理解していただくために、最初にOOH(屋外・交通)広告に関わってくる費用のオールキャストをあげてみます。
大きく分けて「媒体費・製作費関連」と「制作費」、そして「営業管理費」(表1参照)。さらに、小項目がある、という理解がいちばんわかりやすいと思います。
「セイサクヒ」が二つあることで少々混乱する方もいるかもしれませんが、一般的に、あるいはUniversal-OOH編集部の周辺では、「衣のつくセイサクヒ」「つかないセイサクヒ」という言い方で、使い分けています。さらにいうと、一つ一つの名称は、媒体社や制作会社、また地方によって若干変わる場合もあります。まずは名称を覚えるというよりも、このあとの説明で概念をつかんでください。
(表1)
これはまさに、枠を買う(占有する)ためのお金です。媒体の持ち主に支払う費用で、場所・大きさなどでそれぞれ価格が決められています。閑散期の割引価格や、セット割引などもありますが、原油や野菜のように、需要と供給の関係で大きく価格が変動するものではありません。当然ですが、デジタル/プリント通じてかかる費用です。
ポスターを貼る作業や、掲出期間が過ぎたあと撤去する作業に対して支払う費用です。レギュラーの広告枠ではほとんどが定額ですが、たとえば、駅の営業終了後に施工しなければいけない特殊なスペースの場合などでは、費用が大きくなっていきます。逆にデジタルのメディアでは不要な場合も多いです。
これらもプリントで必要となる費用です。印刷機で刷る場合は印刷費、プリンターで出力する場合は出力費となります。
一般的に車内広告のように納品枚数が多い場合は印刷が割安。納品枚数が少ない場合は出力の方が有利となります。ただし、納品枚数以外にも、特色が使える、紙の選択肢が広いなど印刷が有利な面もありますし、写真の再現性にはそれぞれ個性があります。費用対効果を考慮して適切な方法を選びましょう。そして、忘れてはいけないのが紙代。原料費高騰の流れもあるので注意が必要です。
プリントのほとんどは、媒体社指定の箇所に納品・搬入することになります。紙は意外に重いので納品枚数が多い場合は、納品・搬入費も嵩んでいきます。
いっぽうデジタルの場合、送稿費がかかる場合があります。デジタルデータを送信するだけではなく、データの形式・仕様が媒体の指定に合っているかチェックする役割を担っているケースもあります。
4.の制作費は、広告表現をつくるためのお金。主にソフトにかかる費用です。企画費はその大元で、今回の広告目的を元に、いつ、どこで、どんな表現を誰に向かって発信するか、戦略・戦術を考えるための費用です。広告主としてどこまで自前で進めるか、どこからは広告会社や制作会社に依頼するか、によっても費用は変わってきます。新たに広告表現をつくるのであれば、デジタル/プリント問わず必要となる過程です。
左官屋さんや建具屋さん、さまざまなスペシャリストが協力して家を建てるのと似ていて、広告制作も多くのスタッフの共同作業となるケースがふつうです。完成形が初めに意図したどおりのものになるように、さまざまなスペシャリストの働きをディレクションし、クオリティやスケジュールを管理する、いわば大工の棟梁に支払うお金がディレクション費です。企画・ディレクション・進行管理をプロデューサーが一手に担う場合などもあります。また、総合的なディレクションはクリエイティブ・ディレクターが、映像のディレクションは映像のディレクターが、全体の見え方はアートディレクターが、というように、複数のディレクターが分業するやり方もあります。
広告表現に用いられる文字情報を作成するための費用です。目立つのはキャッチコピーですが、それ以外にも、企業のスローガンの作成や商品スペックの整理、出演者のセリフなどを含む場合もあります。
商品写真や広告のメッセージ、広告表現に用いられるさまざまな素材の色や形、配置を考え、一つの広告表現にまとめ上げる作業に関わる費用です。前述のアートディレクターがデザイナーをディレクションするケース、アートディレクターが自らデザイン作業も担うケースなどさまざまなスタイルがあります。
たとえば広告表現が、商品を手に持った人物が海辺に座っている表現をゼロからつくる場合、モデル代、最適なモデルを探すキャスティング費、モデルの着る服を探す・作るスタイリスト費、モデルが座る椅子を探す・作る美術費、モデルの髪・メイクを整えるヘアメイク費、撮影する場所を探す・許可取りをする・撮影当日の場所の管理をするロケコーディネート費、写真・映像を撮影する撮影費、撮影時の光をコントロールする照明費、音声を録る録音費、カメラ・照明などの機材レンタルにかかる機材費、撮影した写真・映像を整えるCG費、映像素材をまとめ上げる編集費、BGMをつくる・借りるための音楽費など、さまざまな費用が発生します。
いっぽう極論すると、同じ構図の表現であっても、それを一枚のイラストで表現するのであれば、イラスト費のみで賄える場合もありますし、既存の広告表現を後述のリサイズで活用するのであれば0円で済むケースもあります。表1の中で最も金額の振れ幅が大きいのが、ビジュアル・素材費です。
新たにゼロから広告表現をつくるのではなく、たとえば自社が持っている新聞広告の表現を駅ポスターに転用する場合、テレビCMを街頭の大型ビジョンに転用する場合など、既存の表現素材のサイズやプロポーション、秒数、データの仕様などをリメイクするのに必要となるのが、リサイズ・再編集費です。駅貼りポスターの表現をつくり、その表現を中づりワイドでも展開する場合などにも、同じく必要となる費用です。
なお、プラットフォーム「TADSS(タッズ)」では、デジタルサイネージ標準仕様データから各媒体社のデータ仕様へ自動的に変換することができます。詳しくはこちら。 ※「TADSS(タッズ)」は広告会社・媒体社向けのサービスです。
グラフィックであれ映像であれ、制作した広告表現を印刷あるいは媒体社に納品する際、必要となる費用です。受け取り側の仕様に合わせたデータにまとめる作業、そのためにかかるのが入稿データ作成費になります。
プリント費というのはテレビ局がon-line送稿になる前の時代、たとえば全国20局でCMを流す場合、同じ素材を20本のテープにプリント(コピー)し送る必要がありました(いまでも一部地方局でプリントが必要な放送局が残っています)。OOH(屋外・交通)広告の場合は、ほとんどのケースでon-line送稿となっているため、プリント費が発生するケースはごく稀です。
大まかにとらえると、「媒体費・製作費関連」のカテゴリーは、一部、時期による媒体費の割引価格などはあるものの、総じて広告主側の工夫で費用を変えにくい費用がほとんどです。いっぽうで、「制作費」のカテゴリーは、撮影とイラストの例でお示ししたように、広告主側の工夫で費用をコントロールする余地が大きいと言えるでしょう。
しかし、実はそれだけではありません。「媒体費・製作費関連」のカテゴリーでも、どの媒体を使うのか、その媒体はデジタルなのかプリントなのか、など、より適正なプランを吟味することで費用対効果を高めることができます。たとえば最初の発想が「駅のサイネージでウチの広告をやったらいいんじゃないか」であったとしても、一度は、その広告の目的、「誰に何を届けたいのか」に立ち戻って検証することで良策が見つかるケースもあり得るでしょう。
次いで「制作費」のカテゴリーについて。こちらは実写かイラストかの違いはもちろん、誰に制作を依頼するのか、どこまで自社内で賄うのか、によっても大きく費用は変わります。さらに「制作費」カテゴリーの難しいところは、安かろう悪かろうになる可能性もあるし、安かろう良かろうにもなり得る、ということ。このあたりもやはり、その広告の目的、「誰に何を届けたいのか」を意識し、どれだけのクオリティが必要か検討することが大切だと思います。
通常、営業管理費は制作費などの総額の何%という計算で算出するケースが多いです。(「制作費など」としたのは、媒体や媒体社、その他のケースによって、掲出撤去料や施工費、印刷費や紙代なども総額に含まれる場合があるためです)。この「総額の何%」が、広告出稿をサポートする広告会社の手間賃となります。
この金額の使途は何か、というと、プロフェッショナルのサポートに対して支払う金額、という理解がシンプルです。5.で触れた費用対効果を高めるための工夫などを考える場合、広告目的と見比べて広告表現は適切な内容になっているのか、クオリティは広告主や商品のブランドときちんとマッチングされているか、さらに効果を高めるため付加するべき施策はないかなど、さまざまな判断。あるいは、媒体社の広告審査を含めた進行管理など。蓄積した知見を総動員して広告発信を成功につなげるために伴走すること。それが広告会社の重要な役割です。広告会社を活用する中で、いままで気づかなかったコミュニケーション課題が見出され、広告目的を転換し、結果としてビジネスの伸張につながるケースも多々あります。広告上手な企業は、広告会社の活用に長けている場合が多く見られますし、なるべく費用対効果を高めたいのであれば、広告会社を上手に活用することが近道かもしれません。
コロナが5類に移行して以降、人やモノ、お金の動きもしだいに復活しつつ、コロナ禍前とはまた違う、新しい暮らし方が始まった感があります。変化がある時は、チャンスもある時。OOH(屋外・交通)広告を上手に活用し、あらたなビジネスに取り組むチャンスでもあるかもしれません。
今回のコラムでは、OOH(屋外・交通)広告の費用感をメインに、費用対効果を高める工夫について少しだけ触れさせていただきました。具体的な広告活動をイメージする際、ご不明な点が出てきたり、広告の目的は決まっているが媒体選択で迷っている、などご相談ご質問など何かありましたら、当サイトの「お問い合わせ」をぜひご利用ください。OOH(屋外・交通)広告を通じ社会全体がより活性化していきますように。
ご精読ありがとうございました。