2022.09.12
ジェイアール東日本企画(以下jeki)「Universal OOH」では、「OOH(交通広告や屋外広告など)をわかりやすく、使いやすく」を推進する目的として、オリジナルのOOH広告効果指標・広告効果可視化ツール「Universal OOH Plus」の開発に取り組んでいます。
まずはシンプルに「広告放映(掲出)時にどのくらいの人が接触したのか」を、曜日別、性別、年代別に可視化することを検証中です。
基礎データの一つになったのはクロスロケーションズ株式会社(以下クロスロケーションズ)が提供する “人流データ”です。
ロケーションテックのリーディングカンパニーであるクロスロケーションズの吉永氏と西川氏、jeki「Universal OOH」プロジェクトで計測・システム開発を担当している四條が、OOH広告におけるデータ可視化の動向について語り合いました。
Universal OOH
OOHのリーディングカンパニーをめざすjekiが「OOHをわかりやすく、使いやすく」をコンセプトに開始したOOHメディア UX向上プロジェクト。OOH市場の活性化をめざし、ユーザビリティの向上、活用環境に合わせたメディア開発、セールスなど取引プロセスのアップデート(デジタル化)および広告主や媒体社のニーズに適合したソリューションの開発などの課題に取り組んでいる。
クロスロケーションズ株式会社
ロケーションテックのリーディングカンパニー。商圏分析、競合分析、人流解析、リテールサポート、効果測定、位置情報広告など、位置情報ビッグデータをAIで解析することで、さまざまな分析や集客が行えるデータマーケティング・プラットフォーム「Location AI Platform®」を提供している。
(中央)
クロスロケーションズ株式会社
Sr.Marketing Manager, Digital Marketing
吉永倫久氏
(右)
クロスロケーションズ株式会社
Sr.Account Manager, Sales
西川美都子氏
(左)
株式会社ジェイアール東日本企画
経営企画局企画部 部長代理 兼 jeki-X
Universal OOH プロジェクト
四條浩紀
四條 日本国内においてWEB広告の取扱高がテレビ広告を抜き、併せてデジタルでの広告の指標化が浸透してきました。そこで、jekiではOOHメディアのDXを推進するべく「OOHをわかりやすく、使いやすく」をコンセプトに「Universal OOH」が進行中です。
特に交通広告はテレビやWEBに比べ電鉄や駅ごとに細分化され、広告主から見ると「広告メディアとして使い方がわからない」という声をよく聞きます。OOHも他デジタルメディアと同様に、日々進化しており、広告主のニーズに合わせて多種多様なことができるのですが、それが上手く伝わっていない。さらに現状明確な効果測定の方法が確立されていないのが、メディア選択から漏れてしまう要因となっています。
西川 今回、私どもの“人流データ”に興味を持っていただきありがとうございます。「Universal OOH」で活用いただいていることを嬉しく思います。
四條 「Universal OOH」は、現在、次の3つの領域を推進中です。
①多くの広告主との新しい接点を生み出すWEBサイト「Universal OOH」を開設。
jekiはOOHのリーディングカンパニーをめざして、OOHの使い方はもちろんのこと、メリットやデメリットもご理解いただき、ご活用いただけるよう情報発信をしていく。
②「広告効果をデータで示して欲しい」という広告主のニーズに応えるため、オリジナルのリアルタイムの計測アルゴリズムと広告効果計測ダッシュボードを開発し、OOHの効果の可視化に取り組む。
③OOHになじみの少ない広告主向けのコンシェルジュサービスや動画作成を推進する。
本日は、②OOHの効果の可視化について、クロスロケーションズの吉永さん、西川さんと共にディスカッションできればと思います。
吉永 本日はどうぞよろしくお願いいたします。最初に当社について簡単にご説明させていただきます。クロスロケーションズはスマートフォンのアプリから収集した国内最大級の位置情報(GPSデータ)ビッグデータを独自のAI技術により開発したコアシステム「Location Engine™」を使用して、誰もが簡単に人流データを活用できるクラウドプラットフォームサービスを提供している会社です。OOHにおける広告効果の可視化の基礎データとして、主力製品である「Location AI Platform®(以下、「LAP」)」の準リアルタイムの人流統計データを活用いただいております。
西川 “人流”という言葉は、昨年2021ユーキャン新語・流行語大賞のトップ10にも選ばれるなど話題になっています。当社はコロナウイルスの感染拡大前よりこの“人流データ”を活用したサービスを提供して参りましたが、コロナ禍において、テレビなどのメディアで頻繁に人出の増減を表す“人流”という言葉が使われ始めたことにより、身近な言葉になったと感じています。一般的に「人流=主要繁華街での流入人口」として、特定の場所・時間帯における人出の様子や規模を表す形で使われていますが、ビジネスにおいて人流データは、小売・外食・消費財などの業界を中心に、消費者の行動変容や意識が変化したリアルな今を把握するための重要な情報として活用する企業が増えています。御社のようにOOHメディアの広告効果を人流データの活用で示していくという具体的な使い方を持つ企業様にお声がけいただいたことで、人流データが価値あるデータとしてより一層認められるようになったのかなと思いました。
四條 最近のOOH広告効果の可視化に向けた動きとして、首都圏交通媒体事業者11社局「交通広告メジャメント標準化検討会」や一般社団法人日本広告業協会「OOH新共通指標策定プロジェクト」、一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムなどで共通指標策定に向けた動きが進んでいます。また、Osaka Metroのインプレッション販売(改札口データ利用)、小田急・東急・京王3社の計測データに基づく販売(Wi-Fi利用)などの実証実験が開始されました。中でもOsaka Metroの「視認範囲の有効なターゲットインプレッションのみに課金する」仕組みは業界では新しい試みです。
吉永 OOHメディアの広告接触を計測するための方法として、携帯電話基地局の位置情報、AIカメラ、Beacon、Wi-Fi、GPS…などさまざまな手法がありますが、これまでの測定はどれを採用するのが多かったのでしょうか?
四條 各社がさまざまな実証実験をやってはきたのですが、メインとなるものは未だありません。これまでの効果計測の基本は「広告を見た」「広告を見たような気がする」といったアンケート調査によって、認知者ベースで広告接触者をカウントしていました。
しかし、TV・デジタルといった他メディアや、OOHのグローバルスタンダードは、単純に何人が広告を接触できる環境にいたかという“Viewable”です。昨今、コロナ禍による鉄道利用者が減ったことにより、OOHの効果を他メディアと比較しながら把握したいという広告主のニーズが増えてきたため、「Universal OOH」は “Viewable”にアプローチすることに決めました。そこで、クロスロケーションズさんに協力をお願いしたのです。
西川 さまざまな計測手法がある中で当社のサービスを選んでいただいた理由を教えていただけますでしょうか。
四條 何はともあれ、OOHメディアの前を何人が通っているかという数字をリアルタイムで出したかった。でも、JR東日本のメディアだけでもJ・ADビジョンは268画面、トレインチャンネルに至っては45,000画面を超えるので、そのすべてにカメラやBeacon、Wi-Fiを設置するのは非現実的でした。
また、広告の延べ接触者数はもちろんですが、TVCMのバイイング等では性年代ごとのターゲットコストも重要な指標です。となると、性年代のデータをぜひとも取得したいのですが、マスク社会の現在は、カメラやセンサーで実態に近い性年代データを集計することは困難です。一方、GPSのビッグデータは、ピンポイントでそれらの情報を可視化できます。さまざまなメディアとの同一の基準を求めるのであれば、GPSという位置情報データを使うことがベストなのかなと思いました。
吉永 数ある位置情報データの中からクロスロケーションズの人流統計データを選んでいただきありがとうございます。当社の「LAP」を活用いただくことで首都圏だけでなく、全国各地の施設や店舗など自由なエリアを分析対象として捉えることができますので、そのエリアの“人流”の推移をかんたんに可視化いただくことができます。
Location AI Platform®の特徴
四條 GPSデータを基盤としているベンダーは数社ありますが、クロスロケーションズさんには、「Universal OOH Plus」が可視化させたいデータが全部揃っています。例えば年代を絞った位置情報データは当社にとって必要不可欠なものですが、ベンダーによっては年代を十分に絞れないデータもありました。
西川 厳しい評価基準の中、当社のデータを採用いただき安心しております。参考までに年代を絞った位置情報データの利用法を教えていただけますでしょうか。
四條 例えば原宿駅メディアの効果測定には、若年層に年代を絞ったデータが必須ですね。
西川 なるほど。WEB広告のセグメントのように、駅によっても利用者の属性や年代を絞った分析が重要となるのですね。
吉永 2020年3月以降、コロナ禍においてニュース等でリアルな人々の動きが取り上げられることが増えたことにより、「人流データ」の存在が世間でも注目されるようになりました。このような背景から、大手企業からベンチャー企業まで人流データをビジネスや社会課題解決に活用できる大きな情報として可能性を感じていただくようになり、当社もご相談を受ける機会が多くなりました。
同時に、具体的に「どんな人流データを、どのようにビジネスに活用するのか」を模索しながら何かには役に立ちそうだ…という「期待感」を持ってお問い合わせいただくことも増えています。そういった企業様からは、クラウドベースのサービスを提供することでデータの収集・分析・アウトプットまでワンストップで行えることを、当社サービスの魅力に感じていただいております。
四條 これまでは、とりあえず何でもいいからデータを集められるだけ集めて、それを長時間かけて分析する専門家がいて、さらにそれを使いやすい情報にするために何度かやりとりをする…。時間も、お金も、人材も膨大でした。御社の「LAP」が、私たちの業務効率に効果を表している実感はあります(笑)。
吉永 ありがとうございます。これまでも流通小売り企業などでは、GIS (地理情報システム)と呼ばれるデジタル地図のソフトウェアを利用することで地図上に地域の会員データ、年収データ、POSデータなどさまざまな静的な情報をレイヤーに載せることで、商圏の特性に合ったエリアマーケティングを行っていました。そこに動的な“人流データ”を活用することで、商圏の特性をより立体的に顧客の解像度を上げて把握することができます。
もちろん、位置情報はプライバシー性が高いため、個人情報保護法の観点からも充分に配慮して取り扱うことが重要になります。また、特定の個人を識別するのではなく、あくまでもその流れを群として捉え、傾向を把握するためのものです。
西川 ロケーションテック(位置情報データ活用技術)の技術も日々、進化しています。代表的なものですと、日本版GPSともいわれる衛星測位システム「みちびき」が2018年から運用を開始しており、さまざまな活用事例が発表されています。また、都市部のビルや山間部など電波が遮られ、位置情報が不安定になる場所においても、「みちびき」の活用により、従来は得られなかったセンチメートルレベルの高精度な測位を行うことで、今後の位置情報ビジネスの発展が期待されています。
四條 今回、「Universal OOH Plus」では「LAP」や駅の乗降客数データ等を使って、実際にメディアの“Viewable”の数値を計測しました。シンプルに「OOHに広告が流れた時、その前を曜日、性別、年代別に何人が通ったか」です。さらに、19年度から直近までの数値をレポーティングすることが可能になりました。これにより、広告主が出稿したい期間の過去実績に基づいた想定広告効果や、実施後のアクチュアルを手軽に把握することができます。
西川 広告主からの反応はいかがでしたでしょうか?
四條 現在、検証中というステータスですが、レポートが出せるようになったので、一目で「いいね」と、ポジティブに捉えていただいているようです。広告主からみればTVやWEBと比較し、OOHではこれだけリーチできたと複数メディアを比較できます。それまでは効果の把握のためにわざわざお金を払って調査をしなければならなかったので、格段のアフターサービスに驚かれます。
また、「若い女性と言えば渋谷や原宿」「シニア層と言えば巣鴨」など、これまで感覚的に捉えていたイメージに対して、実際の数値を見てそのギャップに驚かれることもあるかもしれませんね。一方で、単純なOOHメディアのデータ化は危険だと思います。「WEBの1Viewと、OOH大画面の1Viewを同じと考えられたら困る。相対で比較すると、OOHの価値を棄損しかねない」と考えます。“Viewable”の数値だけが独り歩きしてしまい、「WEBのほうが効率いいよね」とならないために、OOHの価値をキチンと定義することが大事だと思っています。
西川 OOHはスマートフォンやパソコンとは異なり、「見た」「感じた」「体験もできた」という印象が残ることが強みですよね。
四條 そうなんです。渋谷駅のハチコーボードにドーンと掲出するという効果はもちろんのこと、広告主が誇りに思ってくれるメディアでもあります。また、駅の立体的な展開や仕掛けにより、接触したことが印象に残ったり、SNSで拡散されたりするのもOOHの価値です。
吉永 私も四條さんが言われる通り個人的にオンラインとオフラインのViewの価値は同一ではないと考えております。特にリアルならではのそこにしかない「体験価値」は人出の変化だけでは表しにくいものがあります。オンラインにおけるView数やコンバージョン数だけが、広告効果のすべてではないということですね。私どもは、分析エリアにおける人流変化の把握だけでなく、「どのような人が・いつ・どこから訪れたのか?」「そのエリアに訪れた人が他にどんな店舗や施設に訪れているのか?」など、エリアに接触した点としての記録だけではなく、その先の線や面としての流れを把握することによって体験としてのOOHの効果をより立体的に語っていただけるようになると考えております。そのためにも人流データをより信頼いただける武器として活用いただけるように成長させていきたいと思います。
四條 本日はお二人とお話をして、OOHが持つオフラインのよさを守りつつ、できることがたくさんあることがわかりました。年代だけではなく、職業や年収などの属性を可視化して、OOHに効率的に接触させたい。さらに実際の来店計測、購買計測、高揚感など心理的な部分も可視化し、他メディアとの比較ができるようにするのが目標です。
今は可視化できたところで評価していただけると思うのですが、2、3年後にはその精度や価値を問われるのが目に見えています。「Universal OOH」としては、今のうちからロジックを組んで検討していかなければなりません。クロスロケーションズさんのお力を借りながら、OOHの価値を広く、わかりやすく世間にアピールしていきたいと思います。